チリサーモンのサステナビリティレポートを読む。抗生物質?ASC認証?

鱒(マス)
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 チリにはSalmón Chile(サルモン・チレ)という、サーモン養殖事業者やその関連企業で構成される協会がある。業界の発展を目的に、1980年代後半から徐々に出来上がった組織で、現在はほとんどのサーモン養殖事業者が加入している。サルモン・チレが毎年出しているサステナビリティレポートが8月8日に発表されたので読んでみた。レポートからは、一括りに”業界”として見ていた情報が、各社によってかなり異なることが見て取れる。消費者の選択に影響するレポートとして、もっと流布すべきレポートだと思うけれど、そんな時間を誰も持っていないのが歯がゆい。

目次

  1. サステナビリティレポートとは
  2. 抗生物質の使用量
  3. ASC認証
  4. 地域コミュニティでの活動

サステナビリティレポートとは

 レポートは、各社が養殖権のためにいくら支払っているか、地元コミュニティとの活動実績、労働現場での事故率といった社会性のある指標から、サーモンの死亡率や抗生物質の使用量、生簀から流失したサーモンの数といった事業面の指標をまとめている。ネットで閲覧可能で、Googleにサイトを翻訳させるだけでも割と中身が分かる。SalmonChile A.G. – Gesti坦n 2018www.salmonchile.cl

抗生物質の使用量

 まず、抗生物質の使用量を見た。業界最大手のアクアチレのグラフ。2018年の使用量は、サーモン1トンに対して380グラム程度だった。水産庁が発表した2018年のレポートだと、業界全体でみたときのサーモン1トンに対する抗生物質の使用量は383グラム(あくまで生産工程における使用量であって、販売されるサーモンに抗生物質が含まれるわけではない)。アクアチレは最大手だけあって平均値を作り出していると読める。

 7月下旬から8月上旬にかけて、カマンチャカという養殖事業者の拠点を取材した。チリサーモンはざっくりいうと、陸上施設で稚魚を育てて、そのあと海で肥育して、それをプラントで捌いて出荷される。カマンチャカはその上流から下流までの施設を1社で全て持っている。取材でも孵化施設、肥育施設、プラントを見てきた。そのカマンチャカの抗生物質の使用量を見てみる。

 ちょっとグラフが暴れている。チリのサーモン養殖における抗生物質の使用は、SRS症という魚病の発生に大きく依存している。SRS症に罹ったサーモンは皮がただれ、売り物にならない。各養殖事業者はSRS症が発生した際、サンプルとともに抗生物質の使用申請を水産庁に提出し、許可を得た上で餌と混ぜて投与する。カマンチャカはアクアチレほどはSRS症をうまく制御できてないことがグラフからうかがえる。

ASC認証

 養殖された製品には、いろいろと認証制度がある。その一つ「ASC」は、国際非営利団体、水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)の略称。環境や地域社会に配慮した養殖によって生産された水産物を対象とする認証制度で、簡単にいえば「持続可能な水産物」という証になる。パンダマークの世界自然保護基金(WWF)なんかもASC認証制度の普及を支援している。カマンチャカの場合、2018年は総生産量の26%はASCの認証を受けた。水産庁の許可なく抗生物質は投与できないので、SRS症が発生せずに理想的な環境で生産できた場合には、抗生物質使用量0で市場に出回ることになる。抗生物質の使用量だけがASC認証の可否を定める要素ではないが、抗生物質を使わずに出荷までこぎつけることは非常に重要らしい。ちなみに26%という数字は、アクアチリでも変わらない。

地域コミュニティでの活動

 前述の通りASC認証を受けるためには、地域社会に配慮した養殖を実践する必要がある。カマンチャカはその点、養殖事業を展開する地域との活動に力を注いでいる。2018年はどうしたというくらい。カマンチャカは今年7月に新しいサステナビリティ管理部門を設置しているので、今後も地域コミュニティとの活動は増えるだろう。外来産業であるサーモン養殖を地域コミュニティとの対立を避けながら展開するためには不可欠な活動といえる。

 レポートのわずかな部分だけを紹介したけれど、こうしたレポートを公表していること自体が産業の未来にも繋がればいいなと願っている。レポート自体を消費者の選択に紐付けて、よりサステナブルな事業者のプロダクトの購入を促進することは難しいけれど、ASC認証の普及と消費者の積極的な購買を実現できれば、自ずと淘汰圧がかかる。

 現地での報道や事業者の取材を通して、養殖業界全体としては産業をチリに持ち込んだことを負の遺産にしないために、できる努力をしているように思う。数多の課題をテクノロジーや地域社会との取り組みで乗り越えて、チリサーモンは純正に近い産業になれるだろうか。

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